アメリカ生活こぼれ話
作者がアメリカで生活するうちに気づいた、アメリカ特有の習慣や文化について、独自の考察を交えて書いています。
ヤード・ポンド法の世界
日本やヨーロッパではメートル法が広く普及していますが、アメリカはまだまだヤード・ポンド法が幅を利かせていて、初めてアメリカを訪れるときには、戸惑ってしまいます。
まず、長さの単位系はマイル(ml./mile)/ヤード(yd./yard)/フィート(ft./foot(単数)/feet(複数))/インチ(in./inch)ですが、これは日本人にとって、まだ馴染みやすいほうでしょう。
もっとも、自動車の速度計もmph(マイル/時)で表されるので、市街地の制限速度は「25」や「30」、フリーウェイでも「65」や「75」だったりして、km/hの感覚とはだいぶ違います。
変わったところでは、天気予報で、風速をmph(マイル/時)で表します(1m/sはおよそ2.25mph)。
重さの基本単位はポンド(lb./pound)。 1ポンドは約450グラム、1キログラムは約2.2ポンドと覚えておけば便利です。 ポンドの下の単位はオンス(oz./ounce)で、1オンスは1/16ポンド、約28グラムです。
スーパーマーケットでは、肉や野菜の値段が「1ポンドあたり何ドル」という形で表示されているので、日本の物価と比べようとすると、重さと通貨の両方を換算しなければならず、すぐには計算できません。 同様に、ガソリン代も「1ガロンあたり何ドル」です。
容積の基本単位はガロン(gal./gallon)。1ガロンは約3.8リットルです。
1/4ガロン(約0.95リットル)を1クォート(quart)といい、この単位もよく使われます。 牛乳などは1ガロン入りのプラスチック容器がごく普通に売られていますが、1/2ガロン、1クォートというものもあり、1クォートがちょうど日本でおなじみの1リットル紙パックとほぼ同じ大きさです。
さらに、1/2クォート(約0.47リットル)を1パイント(pint)、1/16パイント(約29cc)を1液量オンス(fl.oz./fluid ounce)といいます。
アメリカ滞在中に運転免許を申請したときに、身長と体重を尋ねられたのですが、さすがに私はcmとkgでしか答えられませんでした。 でも、そういう人が多いのか、窓口にはちゃんと単位の対応表があって、係員はそれを見ながら、フィート/インチとポンドでコンピュータ端末に入力していました(それらの値は、免許証に表示されています)。
最もやっかいなのが、「華氏温度(Fahrenheit)」。
これは、日本で一般的な「摂氏温度」と比例していない(0度の位置が異なる)ので、単純に何倍とはいかないのです。
いちおう、簡単な計算式は知られていますが、いちいち換算していては不便極まりなく、華氏温度の感覚に慣れてしまわないといけません。
気温はもちろんのこと、オーブンの温度も華氏で表されるので、摂氏温度の感覚はあてにせず、350度から450度ぐらいの範囲で、調理に適当な温度を経験的に見つけるようにしています。
アメリカがメートル法導入を頑なに拒んでいる理由の一つは、「アメリカ人は10進小数を好まない」ということのようです。 アメリカでは、あらゆる場面で、1より小さな端数を表すのに、「0.5」「0.1」などの10進小数よりも、「1/2」「1/4」「1/16」などの分数が好んで使われるのです。 クォーター(25セント)硬貨があるのは、その最たるものでしょう(→貨幣)。
ちなみに、建物のフロアの数え方は日本と同じで、地面と同じ高さが"1st floor"となります。
華氏/摂氏温度換算の秘訣
アメリカを訪れる日本人は、誰しも「華氏温度(Fahrenheit)」にとまどいを感じることと思います。 また、アメリカに長く滞在している人でも、華氏温度の感覚になじめない人や、華氏/摂氏温度の換算を「難しい」と感じる人は多いのではないでしょうか。
ここでは、私が使っている、華氏で表された気温を摂氏に換算する簡単な方法をお教えします。
まず、華氏温度と摂氏温度の対応を表す公式をおさらいしておきましょう。
- 摂氏→華氏の換算公式
- (華氏温度) = 1.8 × (摂氏温度) + 32
しかし、この公式を覚えたところで、実際にはほとんど役に立ちません。
この式には足し算と掛け算、それに小数まで現れていて、こんな計算はとても暗算でできるものではありません。「華氏→摂氏の換算」となると、「割り算」が出てくるのでもっと複雑です(それに、そもそもこの公式自体、覚えやすいとはいえません)。
ここで紹介する方法は、 華氏で表された気温を、簡単な計算で摂氏に変換するものです。 この方法の利点は、
- 比較的覚えやすく、慣れるのが早い
- 計算は暗算で可能
- 誤差が比較的小さい(実用上は十分)
ということです。
この計算法のポイントは、次の2点です。 これをぜひ覚えてください。
- まず、「要」となる温度について、摂氏と華氏の対応を覚えてしまう。
- 換算したい気温と「要」との差分を、「摂氏1度差 = 華氏2度差」で補間する。
摂氏(C) | 華氏(F) |
---|---|
0 | 32 |
10 | 50 |
20 | 68 |
30 | 86 |
まず、摂氏0度、10度、20度、30度という「きりのいい」温度について、右の表の通り、摂氏と華氏の対応を覚えてしまいます。
気温の換算だけなら、このぐらいの範囲で大丈夫でしょう。 お住まいの地域の気候によっては、40度C(104度F)、-10度C(14度F)、-20度C(-4度F)なども覚えておくとよいかもしれません。
実際に華氏で表された気温を見て、 それを摂氏に換算するには、次のようにします。
例として、「92度F」を摂氏に換算してみましょう。
先ほどの表で、「92度F」に最も近い「要」の気温は、「30度C = 86度F」です。 これで、まずは「30度Cより少し高い」ということがわかります。
次に、この「要」の温度からの差分を、 「摂氏の1度の差 = 華氏の2度の差」とみなして換算するのです。 この例の場合、92度と86度の差は6度なので、摂氏では3度の差。 すなわち、30+3で「33度C」となります。
最後の計算で、 摂氏の1度の差に相当する華氏の温度差を、 実際には「1.8度」であるところを「2度」とみなしているので、 多少の誤差が出ます。 しかし、この誤差は高々0.5度Cぐらいなので、 実用上は差し支えないでしょう(正確には、92度F = 33.3度Cです)。
この計算方法は 「摂氏→華氏」の換算にも応用できます。 たとえば、「18度C」を華氏に換算するには、
- 20度C → 68度F
- 摂氏の2度の差 → 華氏の4度の差
ということから、「64度F」となります(正確には、18度C = 64.4度F です)。
いかがでしょうか? 文章で説明すると長くなりますが、慣れてしまえば簡単です。 ポイントは、公式として暗記するのではなく、計算の手順とその意味を理解することです。
そして、この方法のもう一つの利点は、 「最初の表を覚えるだけでも、華氏温度に慣れるのが早くなる」ということです。 「おおざっぱな対応関係が頭に入っている」ということは、 華氏温度の感覚を身につけるのに、大いに役立つはずです。
なぜchemealeonはない
貨幣
米ドルの紙幣は、どの額面の紙幣も大きさ、紙質、インクの色が同じで、基本的なデザインも似ている(肖像の人物は違う)ので、とても間違えやすく、いちいち隅に書かれている数字を確かめなければなりません。
よく使われる紙幣は、1ドル、5ドル、10ドル、20ドル、50ドル、100ドルです(2ドル札もあることはありますが、あまり出回っていません)。
コインは、よく使われるのは次の4種類で、それぞれニックネームで呼ばれています。
- 1セント = ペニー penny
- 5セント = ニッケル nickel
- 10セント = ダイム dime
- 25セント = クォーター quarter
(画像: アメリカのコイン/左から、ペニー、ニッケル、ダイム、クォーター)
50セント(ハーフダラーhalf dollar)や1ドル(ダラーdollar)もあることはありますが、あまり使われません。 ただし、郵便切手の自動販売機では、1ドル以上のお釣り(change)はダラーコインで出てきます。
「25」という単位は日本でもヨーロッパでもあまり馴染みがありませんが、アメリカではクォーターが最も使用頻度の高いコインです。 たとえば、飲料の自販機は50セントか75セント、コインランドリーは75セントなど、クォーター単位の値段がついています。
アメリカのコインには、額面の「数字」がどこにも書いてありません(しかも、ダイムとクォーターの表示は「ONE DIME」「QUARTER DOLLAR」で、どこにも「10」「25」という意味のことは書いていないので、知っていないと使えません)。 ですから、コインの種類は、形と色で覚えてしまわなければなりません。 4種類だけなので、すぐに覚えられますが。
もっとも、アメリカはキャッシュレス社会なので、財布のお金を数える機会自体が少ないですし、スーパーマーケットで買い物をするたびに小銭がたまる、ということもありません。 紙幣のほうも、日常的に用いられるのは、ほとんど20ドル以下で、50ドル以上のお札を手にする機会はあまりありません。
キャッシュレス社会
アメリカ社会のキャッシュレス化は、私たち日本人の想像以上に徹底していて、スーパーマーケット、カフェテラス、本屋、さらには露店でさえも、小切手(check)やクレジットカードで支払いができるのです。
現金しか受け取らないのは、飲料やスナックの自販機、コインランドリー、それに強盗(!)ぐらいではないでしょうか(ファーストフード店は現金しか受け取らないところが多いです)。
そんなわけで、アメリカ人の大人は誰もが銀行に当座預金(checking account)を持ち、買い物の際には財布のお札を数えるのでなく、小切手帳に金額を書いてサインするのです。
日本では、個人で小切手帳を持っているなどというのは、ごく一部のお金持ちに限られるのではないでしょうか。
また、クレジットカードのキャッシングマシンがいたる所にあり、万一支払いにカードが使えなくても、買い物には困らないようになっています。
このほか、私は使っていませんでしたが、最近日本でも実用化された「デビットカード(debit card)」も広く使われています。 これは、要するに「キャッシュカードで直接口座から支払いができる」というもので、小切手の代用と考えることができます。
公共料金の支払いも、たいてい「小切手の郵送」で行います。 日本で一般的な「口座自動引き落とし」の制度もあるにはあるのですが、アメリカ人は「自分で小切手を書かないと気が済まない」ためか、あまり普及していないようです。
身分証明書とサイン
アメリカで長い間生活していると、アメリカの社会においては、「写真入りの身分証明書」と「署名(siguature)」というものが、日本とはかなり違った意味合いを持っていることに気づきます。
Picture ID (写真入りの身分証明書)
まず、写真入りの身分証明書(Picture ID)ですが、これは、公的手続きなどに限らず、日常生活のあらゆる場面で必要になります。
まずは、「お酒を買う」「酒場に入る」「カジノに入る」などの時には、年齢を確認するために、身分証明書の提示を求められます。 特に、お酒については年齢の確認が厳しく、大人でも身分証明書を持っていないと売ってもらえません。 「子供に買いに行かせる」など、もってのほかです。 未成年者の飲酒が発覚した場合には、拘置所に入れられることさえあるそうです。
次によくあるのは、 小切手(personal check)で支払いを行う場合です。 この場合、小切手を受け取る店員は、提示された運転免許証やパスポートの番号を小切手の余白に書き込みます。
小切手を受け取る際に身分確認を行うかどうかはお店の判断によるようで、常に身分証明書の提示を求めるお店もあれば、高額の場合などにケースバイケースで提示を求めるお店もあるようです。
ちなみに、クレジットカードで支払いを行う場合は、クレジットカード自体がある程度IDの役割を果たすためか、身分証明書の提示を求められることはあまりありません。
変わったところでは、国内線航空機の搭乗手続きでも、必ず身分証明書の提示を求められます。 これは、ハイジャックや爆弾テロなどの犯罪を抑止するのが大きな目的でしょう。 アメリカにも主要な空港には「自動チェックイン機」がありますが、それを利用した場合は、搭乗ゲートの前で身分証明書のチェックが行われます。
日本の航空会社の国内線では、偽名や他人名義での搭乗については実質ノーチェックですが、これは考えてみれば不思議なことです。 セキュリティの問題もさることながら、記名式回数券などの不正使用を防ぐ意味でも、日本の航空会社こそ、搭乗者の身分確認を行うべきだと思えるのですが…
このように、日常生活のあらゆる場面で必要になる「写真入りの身分証明書」ですが、ほとんどのアメリカ人にとっては、言うまでもなく「運転免許証」がその役目を果たします。
海外旅行の際は、多くの人にとって、パスポートが唯一の「写真入りの身分証明書」になると思います。 アメリカを旅行するときは、入出国以外の場面でも、上述のように、身分証明書が必要になることがたびたびありますから、パスポートは常に「取り出しやすく、かつ、盗まれたり紛失したりしにくい」場所に持っておきましょう。
上述の「取り出しやすく、かつ、盗まれたり紛失したりしにくい」という条件は互いに矛盾するように思われますが、男性の場合、シャツの胸ポケットにボタンがついていれば、そこが最もよいと思います。 私は、海外旅行の際、胸ポケットの大きさ(パスポートが入るかどうか)とボタンの有無を基準に、持っていくシャツを選んでいます。
アメリカ社会における「契約」と「署名」
アメリカ社会における契約の基本は「署名」(signature)です。 小切手を発行するときでも、アパートやレンタカーを借りる場合でも、各種の公的手続きを行う場合でも、必ず最後に、本人の同意を確認する意味で、本人の署名が必要になります。
また、公的な手紙などは、本文がタイプや印刷であっても、文末に直筆で署名されているのが普通です。
日本の社会では、契約の基本は「ハンコ」ですし、クレジットカードを使う際も、署名をチェックしないことが多いので、「署名」の持つ契約上の意味というのは、日本人にとってはピンとこないかもしれません。 しかし、欧米社会においては、単に「名前を書くこと」と「署名」は、はっきり異なる概念となっています。
光が地球に到達するためにどのくらい時間がかかりますか
ちなみに、多くのアメリカ人のサインは、「筆記体」というよりは、もっと極端な「くずし字」で、とてもスペルを「読みとれる」ようなものではありません(読みとれるとしても、せいぜい最初の2〜3字ぐらいでしょう)。 肝心なのは、「それが『署名』であるとわかること」「同一性が確認できること」であって、名前のスペルを反映しているかどうかということは、重要ではないのです。
日本人のサインはローマ字? 日本語?
日本人が海外生活や海外旅行をするとき、さまざまな場面で「署名」をする必要がありますが、そのさい、「ローマ字」「日本語」のどちらで署名すべきなのでしょうか?
これは、どちらにも一長一短があり、一概にはどちらがよいとはいえないと思います。 現にアメリカで生活している日本人を見ても、どちらの流儀の人もいますし、旅行ガイドを調べても、「ローマ字にすべし」「日本語がよい」という両方の意見がみられます。
一般論として、相手が知らない文字によるサインというのは、「それが本人の名前である」ということが直ちには判断できない、という意味で、「不親切」であるとはいえます。 このことによるトラブルを避けたいという人は、ローマ字によるサインで統一するのがよいでしょう。
しかしながら、サインが日本語で書かれているがために、そのサインが受理されないということは、めったにありません。 先に述べたとおり、サインの効力において最も重要なのは「同一性」であって、それがどのような文字で書かれているかは二の次だからです。
私自身は、パスポートや運転免許証をはじめ、入出国関連の書類、小切手、クレジットカードなど、ありとあらゆる署名を「日本語」で通しました。 これは、「日本人としての自己主張」という気持ちも少しはありましたが、最大の理由は、私が「英語の筆記体を書くのが苦手」だということです。
こう書いただけでは、「筆記体が苦手であることと、ローマ字でサインしないことに、どのような関係があるのか?」と疑問に思われることでしょうが、私がローマ字でのサインを避けているのは、次のような理由によります。
- 字が下手で見苦しい。
- 毎回同じように書ける自信がない。 つまり、自分で自分のサインの同一性を保証できない。
- 相手の目の前でサインする場合、スムーズに書けないと怪しまれる。
- 不慣れな英語の筆記体は、第三者に真似をされる危険性が高い。
旅行ガイドで「日本語によるサイン」をすすめている場合は、4番目を根拠にしていることが多いようです。
1番目には多少(自虐的な)ジョークも含まれていますが、2番目は決して洒落ではありません。 アメリカに留学していたある日本人は、授業料を小切手で払ったところ、自分が書いた小切手が「サインの不一致」という理由で無効とされ、授業料未納として延滞加算金を取られたことがあるそうです(彼のサインは、ていねいな(スペルがはっきりわかる)ローマ字の筆記体でした)。
私自身は、アメリカ滞在中に、日本語のサインによるトラブルは、ほとんど経験しませんでした。 (かえって、日本国内で国際的な手続きをする時のほうが、「サインは英語で…」と言われることが多いような気がします。)
ただ一度、運転免許を申請する際に、最初「サインは英語でなきゃダメ」と言われましたが、その時も、「私はパスポートも小切手も日本語でサインしている」と説明して、日本語によるサインを認めてもらいました。
もっとも、日本語のサインを見て、怪訝な顔をする人や、逆に興味を示す人はときどきいて、中には、"Nobody can copy your signature."(あなたのサインは誰にも真似できないでしょう)とジョークを言う人もいました。
海外旅行の際は、 パスポートの署名欄が日本語でもローマ字でも、入出国関係の書類には「パスポートと同じ署名」をすべきです。 また、トラベラーズチェックを購入する際も、パスポートと同じサインに統一するのが無難です。
例外は、クレジットカードを使う場合で、これだけは「カードの裏面と同じサイン」でなければなりません(パスポートの署名はローマ字でも、クレジットカードは日本語という人は多いのではないでしょうか)。
アメリカ流社交術
アメリカに来てから、いろんな人たちに出会いましたが、そのたびに感じるのは、「アメリカ人はみな気さくで、少しも人見知りをしない」ということです。
アメリカ人たちは、あらゆる場面で、とにかく初対面の人には、まず名乗り出て握手を求めるのです。 おかげで、けっこう人見知りが強くて友達をつくるのが苦手な私でも、気軽に握手して名乗ることができます。
初対面の人との挨拶は、とにかく「握手」が基本。 日本人流の、「頭を下げて礼をする」(bowing)というのは、アメリカ人には奇異に映るようです。
近所の人と会ったときなどは、いつでも気軽に「Hi.」または「Hello.」と挨拶。 これにはすぐ慣れて、気持ちよく生活できるようになりました。
これは欧米では普通のことですが、よほどかしこまった場面でない限り、人の名前はファーストネーム(姓・名の「名」)で呼び、ラストネーム(姓)は日常会話ではまず使われません。 そんなわけで、人の名前はたいていファーストネームで覚えるので、 親しい人でもラストネームを覚えていないということはざらです。
「ファーストネームで呼ぶ」というのは、欧米流の「親しさの表現」でもあるようですが、この「親しさ」という考え方も、日本人とはやや異なります。
アメリカ人にとっての「親しさ」とは、年齢や地位、社会的な従属関係などとはあまり関係ありません。 とにかく、会って名前を覚えてしまえば、それだけですでに「親しい」わけで、年上とか年下とかはどうでもよいのです。
日本人の礼儀では、しばしば「慎み」を重んじ、自己主張を控えめにすることが美徳とされますが、アメリカ人にはそのような考え方はありません。
たとえば、パーティの席で料理をすすめられた時などは、とにかく、欲しければ頼む(そのかわり、必ず「Thank you.」とお礼を言う)、欲しくなければ断る(すると、それ以上しつこくすすめられることはありません)、ということが、相手の気分を害さないことなのです。
自動車交通の諸相
アメリカの自動車交通の諸相と、そこにみられるアメリカの思想について、思いつくままに書いてみました。
交通ルールに対する意識
日本の交通法規は、「低すぎる最高速度制限」を筆頭に、建て前と本音があまりにも乖離しているために、まともに機能していないのが現状です。 それに対して、アメリカでは、ルール自体が合理的に設定されていると同時に、そのルールに違反する者は厳しく取り締まられています。
まず、アメリカの道路を運転していると、速度制限の基準がけっこう合理的に定められていることに気づきます。 つまり、安全かつストレスなく運転しようとすると、だいたい制限速度ぐらいに落ち着くのです。 そうなると、スピード違反の運転というのは、すなわち「無理をしている」ということになり、取り締まりの根拠として十分機能するわけです。
実際、都市内ではスピード違反の取り締まりはけっこう厳格に行われているようですし、フリーウェイでの無謀なスピード違反は、かなり厳しく罰せられるようです。
方法togoldマイニング
スピード違反と同様に、駐車違反も取り締まりが厳しいです。
路上の駐車禁止箇所は、通常、歩道の縁石の色で示されていますが、交差点付近は黄色、消火栓の前(fire lane)は赤、身障者優先部分(wheelchair access)は青、というように、禁止部分が禁止の理由とともに明確に示されています。 そして、そのような禁止場所への駐車については、厳しいペナルティが課せられます。
身障者の車両に対する優先権はかなり確立されています。 大きな駐車場には必ず車椅子マークの区画があり(当然、建物の入口に最も近い場所に設定されている)、「そこだけ空いている」という状態がしばしば見られます。 当然、資格のない車両がそこに駐車すると、高い罰金を科せられます。
アメリカでは「歩行者優先」の原則がきちんと確立されていることも、特筆に値するでしょう。
カープール車線とアメリカ人のモラル
アメリカの大都市のフリーウェイ(高速道路)には、「カープール車線(car pool lane)」なるものがあります。 これは、一部の車線を「2人以上乗っている車専用」とするもので、渋滞緩和のために車の相乗りを勧めるのが目的です。
渋滞の激しい時間帯に「カープール車線だけがすいている」ということはよくあるそうです。 これは、「1人しか乗っていない車の割合が圧倒的に多い」ということと同時に、「カープール車線のルールがきわめて忠実に守られている」ことを意味しています。 (当然、カープール車線の違反走行に対する罰金はきわめて高いです。)
日本では、高速道路にカープール車線を設けること自体に現実味がありませんが、仮にそれが行われたとしても、悲しいかな、日本人のモラルの低さゆえ、「違反走行が常態化して機能しなくなる」と予想せざるを得ません。
自動車の話から離れますが、「カープール車線」に似た話をひとつ。
アメリカのスーパーマーケットには、たいてい「品物の数が少ない人専用のレジ」があり、小口の買い物の客は長い列に並ばなくてすむようになっています。 (→アメリカのスーパーマーケット)
しかし、日本ではこの方式はほとんど普及していません。
このあたりにも、合理性を重んじるアメリカ社会と、後ろ向きな平等主義の根強い日本社会との違いを見ることができるように思います。
スクールバスの特権
アメリカ特有の交通ルールのひとつに、「スクールバスの持つ強力な優先権」があります。 スクールバスが子供の乗降のために停車しているときは、後続車はもちろん、対向車も停止しなければなりません(中央分離帯がない場合)。
また、学校の近くの道路は、通学時間帯には最高速度が極端に低く制限されます(写真)。
これらは、「子供の安全を守るのは社会の責任」(子供は自分自身を守れないから)という、アメリカ社会の思想を端的に表す事例といえましょう。
Right-of-Way
アメリカでしばしば用いられる自動車交通の用語で、日本人にとってなじみが薄いのが、"Right-of-Way"と"Yielding"でしょう。
Right-of-Wayとは、直訳すると「進路の権利」となるでしょうが、残念ながら適当な日本語の訳語が見あたりません。 強いて訳すならば「優先通行権」あたりでしょうか。
Yieldは「道を譲る」「相手を優先させる」という意味。 簡単な例で言えば、(右側通行のアメリカの道路における)交差点で、左折車と直進車(対向車)の進路が干渉する場合、直進車が"Right-of-Way"を持ち、左折車は直進車に"yield"しなければならないわけです。
また、"YIELD" の標識は、日本にないものなので、少々注意が必要です。 交差点や合流点に、"YIELD"と書かれた逆三角形の標識が立っていたら、「相手車線を走る車を先に通しなさい」という意味であって、「一旦停止」や「徐行」とはやや意味が異なります。
Idaho Driver's Manualに、Right-of-Wayに関して興味深い記述を見つけましたので、ここに引用します。 これは、地域や文化を問わず、ドライバーとして肝に銘じておきたい「名言」といえましょう。
Always remember that right-of-way is something to be given, not taken.
right-of-wayとは、与えられるものであって、勝ち取るものではないことを常に銘記せよ。
運転免許制度にみるアメリカの思想
このページでは、アメリカと日本の運転免許制度にみられる、アメリカと日本の文化や思想の違いについて考えてみようと思います。
自由主義と保護主義
よく知られているように、アメリカでの運転免許取得は、日本とは比べものにならないぐらい簡単です。
この背景には、運転免許という制度に対する、アメリカと日本の考え方の違いがあります。 すなわち、日本では「運転に関する技能や関連する知識を完全に習得するまで免許を与えない」という、文字通り「免許皆伝」の考え方であるのに対し、アメリカの場合、「基本的な運転操作ができれば免許を出すから、あとは自分の責任で運転しなさい」という立場をとっているのです。
誤解を恐れずに端的に表せば、日本は「保護主義」、アメリカは「自由主義」(自己責任を重んじる)といえるでしょう。 これは、運転免許に限らず、社会のあらゆる場面においてみられるアメリカと日本の思想の違いを表しているように思います。
もっとも、道路も都市も過密状態の日本に、アメリカ流の放任的な運転免許制度を持ち込んだら、交通事故や渋滞が激増するのは目に見えています。 したがって、単純にアメリカと日本の免許制度を比較して、「どちらがよい」ということはいえません。
しかしながら、日本で運転免許を取った人の苦労話を聞いていると、日本の運転免許基準の厳しさは、自動車学校の既得権を保護するための建前のようにも思えてしまいます。
ただし、「簡単」といわれるアメリカの運転免許制度であっても、未成年者に対しては、学科講習を課すなど、成人よりも厳しい基準を設けています。 未成年者は自己責任能力を十分に持たない分、権利や自由も制限されるべきである、という考え方が定着しているのです。
身分証明書としての運転免許
アメリカでも日本でも、運転免許を語るときに、その「身分証明書(IDカード)」としての機能に言及しないわけにはいかないでしょう。
「身分証明書とサイン」に書いた通り、アメリカで暮らしていると、日常生活のあらゆる場面で「写真入りの身分証明書」が必要になりますが、ほとんどのアメリカ人にとっては、言うまでもなく「運転免許証」がその役目を果たします。
アメリカの運転免許証は、「顔写真」「氏名」「住所」「生年月日」はもちろんのこと、多民族国家ゆえか、「身長」「体重」「髪の色」「目の色」まで記載されます。
また、日本の運転免許証と違って、持ち主のサインが刷り込まれるので、「小切手などのサインと照合する」という使い方もできるわけです。
それでは、運転免許を必要としない、または何らかの理由で運転免許を取得できないアメリカ人は、どうすればよいのでしょうか?
実は、アメリカの運転免許を発行する陸運局では、そんな人たちのために、「運転免許証と同じ身分証明の効力を持つIDカード」、つまり、「運転できない運転免許証」(non-driver license)なるものを発行しているのです。
本来「運転免許」を交付する部署が、そのようなものを発行するのは一見奇妙に思えますが、「運転免許証が身分証明書として最も多く用いられている」という現実を考えると、実に合理的な制度だと思います。 この制度は、アメリカに滞在する日本人で、「そもそもアメリカで車を必要としない」 または「運転免許は国際運転免許証で済ませる」という人にとっても有用でしょう。
日本では、「車は運転する予定はないけれど、身分証明のために」といって、高いお金と長い期間をかけて運転免許を取得する人が少なくないと聞きます。 日本にもアメリカと同じ「運転免許証と同等のIDカード」の制度があれば、「ペーパードライバー志願者」が減って、運転免許を交付するための仕事量も軽減されると思うのですが、残念ながら、日本でそのようなアイデアが実現することはなさそうです。
運転免許は「権利」ではなく「特典」
アメリカ在住の友人から聞いた話ですが、アメリカでは、運転免許を取ろうとする人に対する訓辞として、しばしば「運転免許によって与えられるのは、"right"ではなく"privilege"である」という言い回しが使われるそうです。
rightとprivilegeの違いを日本語で説明するのは難しいですが、あえて言うならば、rightはあらゆる人が本来持っている「権利」、privilegeは状況に応じて特定の人に恩恵的に与えられる「特典」「特権」、といったところでしょうか。 要するに、rightは何人たりとも侵すことはできないが、privilegeは場合によっては剥奪することができる、ということのようです。
この言葉の意味するところは、結局、「運転免許を持っているからといって、好き勝手に運転してよいわけではない。 社会的な規範に従って運転することは、免許を与えられた者の責務である(したがって、規範を逸脱した者は免許を剥奪されるべきである)。」ということなのでしょう。
日本でも、この考え方自体は同じはずなのですが、実際に日本のドライバーの間で、この思想はどれほど意識されているでしょうか?
長距離バスの旅
アメリカでは、鉄道による旅行はあまり一般的ではありません。 そのかわり、長距離バスによる旅行はけっこう人気があります。
グレイハウンド(Greyhound)というバス会社の路線網は、 アメリカ合衆国全土をカバーしています。
バスは全席リクライニングシートでトイレ付き。 長距離の便だと、 2〜3時間おきにロードサイドのドライブインなどで休憩停車します。 夜行便を除いて、途中の小さな町のバス停にも立ち寄ります。 また、運転時間帯によって、食事のための長い休憩をとることもあります。
アメリパス(Ameripass)という周遊券を使えば、 グレイハウンドのバス全線が乗り放題(7日間、15日間、30日間の3種類があります)。 グレイハウンドのバス停がある限り、町から町へバスを乗り継いで、 アメリカじゅうのどこへでも行くことができます。
バス旅行のメリットは、直接的には「安い」「予約が要らない」の2点ですが、昼間便であれば、アメリカの雄大な風景を飽きるほど見ながら旅行できるのも、バス旅行の魅力です。
ソルトレークシティからボイジーへのバスに乗ったときにも、アイダホ州南部、スネーク川の雄大な河岸段丘の風景に目を奪われました。
アメリカのスーパーマーケット
今や日本でもすっかり定着した「スーパーマーケット」ですが、「本場」アメリカのスーパーマーケットは、日本のそれとはかなり雰囲気が違います。
生活に密着した場所だけあって、アメリカと日本のスーパーマーケットの特徴を見比べると、おのずと生活や文化の違いが見えてきます。
平屋の巨大な建物
アメリカのスーパーマーケットを見て、まず最初に驚くのが「建物の大きさ」。 日本の一般的なスーパーマーケットとは比べものにならないくらい大きさです。 これだけ売り場が広いと、慣れないうちは目当ての商品を探すのもたいへんで、店内に掲げられたディレクトリ(配置表)でいちいち場所を確かめなければなりません。
広大な駐車場
広いのは売り場だけではありません。 車社会だけあって、駐車場もとても広いです。 店内のカートをそのまま押して車まで商品を運べるように、駐車場内のところどころにカートの返却場所がつくられています。
商品の大きさ
店が大きいだけでなく、売られている商品の単位が大きいことも特徴です。 たとえば、牛乳は1ガロン(約3.8リットル)入りのプラスチック容器が一般的ですし、ミネラルウォーターに至っては、2.5ガロン(約9.5リットル)入りなどというのもあります。 そのほか、パック入りの肉類もたいてい量が多く、一人暮らしでは消費しきれません。 鶏や七面鳥(turkey)などは、丸ごとでも売られています。
陳列棚の高さ
背の低い日本人にとっては「見上げるほどに」高い棚です。 体格の違いもさることながら、商品の大きさと種類の多さゆえに、高い棚が必要になるのでしょう。
野菜や果物の量り売り
精算の際は、レジのバーコードをかざす部分の台が「秤の皿」になっていて、そこに商品をのせて商品の種類を入力すると、自動的に計量されて値段が計算されるしくみになっています。
ベルトコンベア式レジ
日本であまりお目にかかれないのが、この「ベルトコンベア式レジ」。 精算の際は、お客自身がカートからレジに備えられたベルトコンベア(またはターンテーブル)に商品を載せ換えていきます。 その際、前の人の商品と混ざらないように、プラスチックの「仕切り棒」を間に置きます。
レジ係の店員は、ベルトを動かして商品を「たぐり寄せ」ながらレジ打ちをするのです。
小口専用レジ
多くのスーパーマーケットには、"10 items or less"などと表示された「買い物の品数が少ない人専用のレジ」があります。 アメリカのスーパーマーケットでは「まとめ買い」をするお客が多く、いきおいレジの処理時間が長くなってしまうので、小口の買い物客を待たせないように配慮しているのです。
この「小口専用レジ」には、ベルトコンベアがないことが多いです。 また、支払方法が「現金のみ」とされていることもあります。
支払方法
代金の支払いは、小切手、クレジットカードまたはデビットカードが一般的です。
そのため、レジには小切手やクレジット伝票に記入するための筆記台と、カードの読取装置がついています。
クレジットカードの場合、まず、お客自身がカードを読取装置に通します。 レジ打ちが終わると、クレジット伝票が打ち出されるので、それにサインすれば精算終了です。
デビットカードは、銀行のキャッシュカードによって口座から即時決済されるシステムです。 これも、レジ打ち中にお客自身がカードを装置に通し、暗証番号を入力すればOKです。
また、「キャッシュバック」といって、小切手やデビットカードで多めの金額を支払い、現金でお釣りをもらうこともできます。 これを利用すると、銀行のATMを使うまでもなく、買い物のついでに少額の現金を引き出すことができます。
参考文献
- 並木みどり監修, アメリカ暮しQ&A, JTBのフリーダム102, 日本交通公社出版事業局
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