2012年3月31日土曜日

季報 エネルギー総合工学 Vol.29 No.3|理事長対談 日本をめぐるエネルギー資源と大陸棚問題|芦田 讓氏


はじめに

地球物理学を志した背景

秋山 今日はエネルギー・資源・環境,それから,それらのベースになる科学技術やライフスタイルまでキーワードを追ってお話を頂戴したいと思いますが,その前に,芦田先生が地球物理学を専攻なさった理由,背景などについてお話ししていただきたいと思います。

芦田 私,小さい時から田舎で自然に囲まれて育ちまして,未知のものを知るという喜びを非常に強く感じていました。また,田舎ですから周りに色々な物があって,そういう物を探すことにも強い興味を持っていました。それで,大学進学時には,工学部ではなく理学部へ行こうと決めたわけです。京都大学理学部の場合,3年生になる時にやはり目に見えるもので現在見えていないものを探そうということで地球物理に進んだわけです。

地球温暖化問題

メカニズム不明がネックの温暖化対策

秋山 エネルギー需給に関しては2030年ぐらいまでの色々な見通しや問題分析のレポートが多数出されています。資源エネルギー庁の2030年までの需給見通しでは,人口が減り,経済活動もそう伸びないために,わが国のエネルギー需要は,2021年に4億3,200万リットル(石油換算)でピークを打つだろうとされています。一方,エネルギー関連の国際情勢を見ますと,ロシアによるウクライナへのガス供給停止で,エネルギーセキュリティへの関心が非常に高まっています。その流れの中で原子力もルネッサンス(復興)に沸いています。こうしたことを背景に,最近の地球温暖化問題についての先生のご認識,ご意見をお聞かせ下さい。

芦田 環境問題の中で一番大きなものは地球温暖化問題だと思います。と言いますのは,メカニズムがはっきりしないために対策が講じにくいからです。オゾン層の破壊はメカニズムがはっきりしているので,対策を打っています。残念ながら,地球温暖化については,炭酸ガスやメタンガスなどの温暖化ガスが増えれば,傾向として気温が上昇するというのは分かっているのですが,排出量がどのぐらい増えれば気温がどのぐらい上昇するのかがはっきりしません。気温上昇の原因には太陽の11年周期等の黒点活動の活動変化が挙げられます。それによる気温変動と炭酸ガス等が増えることによる気温変動とで,どちらが大きくなっているかという辺りのメカニズムがまだはっきりしません。ここが,地球温暖化問題の一番複雑 なところだと思います。確かに、炭酸ガスが増えると温暖化が進む傾向にあります。今現在の炭酸ガスの増加というのは異常なもので,今まで地球が経験したことのないような急激な増加が見られます。だから,それによる地球からの反応がどうなるか予測できないというようなことは非常に危険なことだと思います。

芦田 譲氏
(京都大学大学院工学研究科教授)

秋山 問題の実態が完全にクリアでないうえに,予測される影響が相当深刻だという中で「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が国際的に専門家を集めて分析をして,参考になる認識をレポートにまとめています。それと,私の個人的な印象なのですが,メカニズムはよく分からないけれども結果がかなり深刻だという問題については,「転ばぬ先の杖」で,より悲観的に見ておけばいいという姿勢で取り組むべきだと思っています。地球温暖化問題に取り組むことは,非常に重要だと言えますね。

芦田 現在の我々は先祖からずっと,地球が蓄えてきた化石資源を利用して文明を開いてきているわけです。これを,地球環境の破壊問題,あるいは汚染問題という負の遺産として子孫に残すべきではないという観点から地球環境問題を考えるべきだと思います。

秋山 温暖化物質の排出抑制について色々な取り組みがあります。IPCCは制度的な取組みですし,当研究所は技術が主体ですから,技術面での取組み,大学では教育という取組みがあるわけです。現状で温暖化も含めた環境問題について,まだまだ努力が欠落しているところはありますか。

芦田 地球温暖化問題は,地球全体の問題ですから,一国,あるいは一地域だけで対策を練っても意味がありません。そういう意味では,「中国人だ,日本人だ,アメリカ人だ」なんて言っている場合ではなく,「我々は地球人」という考えを持って,地球規模で取り組んでいかないと非常に難しいのではないかと思います。地球環境問題というのは利害得失があります。森林破壊の問題についても,例えばインドネシアとかに行って「木を伐採すると森林破壊になるからやめろ」といっても,彼らは日々家族がどうして食っていくかというのが問題で、地球温暖化問題というのは視野に入っていないと言います。彼らに「もともと計画的に焼き畑農業とかをやっていたのに,日本やアメリカが,パルプのために森林破壊をさせいる じゃないか」と言われるとどうしようもないわけです。
だから共通認識に立ってコンセンサスを作っていくことが非常に大切なのです。気候変動枠組条約締約国会議(COP)だとか地球規模に立って利害得失を調整するものがなければいけません。「地球に優しい」などという考えは,とんでもない考えです。我々,あんまり地球に優しいことはしていないわけですので,そういう思い上がった考えを持っていると,地球からとんでもないしっぺ返しを受けることになります。地球は人類が滅亡しても痛くも痒くもないのですが,人間にとっては地球が滅びたらどうしようもない。そういう観点が必要です。

秋山 日々の新聞やニュースを見る限りでは,個々の地域の利害が絡むために,環境問題への共通の取り組みが進まないという事例があります。また,国際的に大きく見ても,先進国と途上国とでは温暖化問題に対する規制のかけ方などで意見の違いがあります。例えば,COPにおける「ブラジル提案」は,産業革命の頃まで遡って,以後の積算したツケを勘定し,これに相当する精算をしたらどうかといっています。それは難しいと思いますが,おっしゃるように国際的にきちんと協力しなければいけないと思いますね。

資源エネルギー問題

EPRで測るエネルギーの質

秋山 地球温暖化をもたらす二酸化炭素等の排出を抑制するために,化石燃料の消費を抑制することが大変重要だと認識されています。一方で,原油価格の高騰化や資源制約の面からも問題が指摘され,経済協力開発機構・国際エネルギー機関(OECD/IEA)の報告書や国内関係省庁の幹部の方々の発言でも,いよいよ「石油ピーク」の到来を前提にしたエネルギー政策を考えなければいけなくなってきた感があります。そこで,石油の将来的な見通しなどについてお聞かせ下さい 。

芦田 液体でこれほど使い勝手のいい燃料というのは石油以外にありません。今,石油の可採年数(現在の確認可採埋蔵量をその年の生産量で割った値)は,41年だと言われておりますが,41年で石油が全く無くなるということではないのです。例えば,今でも石炭は日本でも沢山ありますが,使っていません。資源として存在していてもコスト的に採算が合わないと,エネルギーとして使われないのです。だから,石油の寿命が41年と言っていますけれども,絶対ゼロにはならないのです。次のエネルギーが出てくればもう使われなくなるのです。そういうことで,コストということが非常に重要になります。我々はEPR(Energy Profit Ratio:エネルギー利得率)という指標ですべてのエネルギーを見ていくべきだと思います。EPRというのは出力エネルギーを得るのに,投入エネルギーがどれくらい必要かという指標です。1ならトントンで,1以下なら採らない方がましということになります。

秋山 EPRについて,一般の方に分かりやすく別の言葉でご説明願えませんか。

芦田 例えば,狩人がウサギを追いかけているとします。当然,そのウサギを捕まえるためにエネルギーを使います。うまくウサギを捕まえることができれば,それを食料にしてエネルギーを得ることができます。そこで,使ったエネルギーとウサギから得るエネルギーのどっちが大きいかが問題です。使ったエネルギーが大きければ,うまくウサギを捕まえたとしても,その人は餓死するわけです。だから,それを得るのにどれだけのエネルギーを使うかという観点が非常に重要なのですね。

芦田  原子力についても,昔は4〜40という非常に幅の広い値がありました。今,原子炉のタイプの違いもありますが,電力中央研究所の天野治さんが「原子力のEPRは17.4だ」としています。(図1参照)。エネルギーを見ていく共通指標が出てきたことは重要なことだと思います。


大工アリはどのように見えるのですか?
図1 各種発電方式のEnergy Profit Ratio

秋山 EPRが1以上でないとエネルギー資源やエネルギー技術は意味がないということで,このEPRという指標に照らして,様々なエネルギー資源の有効性,価値の分析を行っていくということが大変重要なのですね。ただ,気をつけておくべきは,技術の進歩も含めて状況は変化していくこと,従って,EPRの値も固定的なものではないということでしょう。
 このEPRに関して,「日本原子力学会誌」(2005年7月)に,(財)電力中央研究所の長野浩司氏が論文を書かれ,日本の原子力プラント(軽水炉)のEPRは24だと紹介しています。原子炉のタイプ別だと,非常に魅力的なのは高速増殖炉(FBR)の106ということです。

秋山 ところで,EPRでも"Energy Payback Ratio"というのがあります。これは(社)日本工学アカデミー・エネルギー基本戦略部会(秋元勇巳部会長)のレポート「エネルギー基本戦略に関する調査報告書」(2005年3月)にも含まれていますが,エネルギー関連のプラントの全生涯にわたる出力をプラントの建設から始まって運転保守に要するエネルギー全体で割り返した比率です(図2参照)。

図2 各種発電方式のEnergy Payback Ratio
(図をクリックすると拡大します)

芦田 ライフサイクルアナリシスですね。

秋山 はい。そうです。 Energy Profit RatioにしろEnergy Payback Ratioにしろ,こうしたエネルギー収支分析をきちんとやっていくことによって,エネルギーの価値を認識していくことは重要なことですね。

認知され始めた「オイルピーク」

芦田 今,石油価格が高くなってきている原因として,1つに需要の急増があります。それに対して生産が間に合えばいいのですが,統計を見ますと,石油発見のピークは1975年位なのです。それから,1980年には発見量と生産量が大体同じになりました。それ以後は毎年発見量の4倍を消費してきています。当然石油の埋蔵量が減っていかざるを得ません。それを見越して石油価格が上がっているのではないかということです。
 一時は,「どうせ高くなってもすぐまた安くなるだろう」という見方がありましたが,最近は少し傾向が違うのではと考える人が増えてきたようです。現実にサウジアラビアも生産量を見直して,これまで言ってきたほどの埋蔵量はないということで下方修正しています。
 また,リスクマネジメントの観点から「石油生産のピーク」(オイルピーク)の時期をいつと見るかは重要です。例えば,ブッシュ大統領のエネルギーアドバイザーのマシュー・シモンズ氏は「石油生産のピークが2004年だった」と言っています。一方,米国地質調査所(USGS)は,「もっと後だ」と言っています。日本でも,「新・国家エネルギー戦略」で「楽観的に見ても2030年代に,場合によっては更に早い時期にピークを迎えるのではないかといった石油ピーク論なども指摘されている」との下りがあります。しかし,2004年と2030年ではかなりリスクの程度が違ってきます。だから,我々はリスクが大きいのか,小さいのか,また,そのリスクが好機なのか,脅威なのかを解析し,それに対して唯一絶対のシナリオではなく,複数の� �ナリオを持つべきではないかと思います(図3参照)。

図3 石油生産のピーク(オイルピーク)
(図をクリックすると拡大します)

石油の推定埋蔵量に幅がある背景

芦田 石油というのは,岩石の中に空隙があって,その中に水と油とが混じる形であります。ですから,石油埋蔵量の計算では,まず,油層の縦×横の面積,それに厚さを掛けて体積を出し,空隙の比率(空隙率)を掛けて,石油の入り得る場所のボリュームを出します。それから水の分を引き,さらに回収率をかけると石油の可採埋蔵量が決まるわけです。
 サウジアラビアにある世界最大のガワール油田は,幅50km,長さ280kmあります。これが60年ぐらい前に発見されました。現在かなり枯渇してきているという説もあります。最近,色々なところで油田が見つかっていますが,ガワール油田のような大油田は見つかっていません。当然,大油田は見つけやすいですから,それが見つからないということは,いよいよ大油田発見の可能性が小さくなってきたということです。

秋山 石油メジャーは,探査・回収技術の格段の進歩や探査の投資の努力などにより,新たな石油・ガス資源の発見に期待を込めて楽観視しているのでしょうか。

芦田 石油メジャーの1つ,ExxonMobilは,彼らのホームページで,「石油生産のピークは2004年で,これから4%か6%減らざるを得ない」と言っています。それから,既存の油田に対し,もっと井戸を掘って取り出すとか,今まで使われていない,例えばオイルサンドとか,新エネルギーを使っても2030年には今の需要の伸びが続けば賄いきれないというレポートを出しております。
それから埋蔵量というのは非常に思惑がありまして,先ほどの考えで計算しますので,少し見直してみると,面積が大きかったとか,油層が少し厚かったとか,空隙率が少し多かっただとか,あるいは水の部分が少なかったとかで,埋蔵量がすぐ変わってくるわけです。実際に,第二次オイルショックの時に,中東のOPEC諸国の埋蔵量が3倍から4倍にジャンプしているんです。これは新しい油田が見つかったわけでもなく,OPECの生産枠が埋蔵量によって決まるということから意図的に埋蔵量を多めに修正したのではないかと言われています。

秋山 政策的な数字なのですね。

芦田 そういう事例もあります。それから,石油の推定埋蔵量はあくまでも推定に過ぎませんから,立場の違いで一桁ぐらい違ってくるわけです。石油のでき方については有機説と無機説があります。有機説は昔の動植物が変化してできたというもので、無機説は地球誕生の時のガスが地殻変動で上に上がってきたというものです。
 石油価格が上がってくると必ず無機説が出てきて「地球誕生の時にできたガスがあるのだから,石油は無尽蔵にある」と言われます。ところが,これは大きな誤りで,石油やガスは凝集しなければ駄目なのです。ただできただけでなく,それが集まってコスト面で採り出せる形にならないと駄目です。有機説であろうと無機説であろうと,油田という形になっていないと利用できないわけです。

いずれにしろ石油は有限

秋山 米国地質調査所(USGS)は,石油の究極埋蔵量を約3兆バレルと言っており,キャンベル氏が推定する1.8兆バレルと大きく異なっています。両者の推定の違いの背景について,分かりやすく説明をお願いします。

芦田 これは究極の推定埋蔵量なわけで,実際に調査してはじき出した数値ではありません。ですから,推定の仕方によって結果が大きく変わるわけです。当然,人によってデータの見方,推定の仕方が違うわけです。本当は物理探査を行って,地下3,000m,4,000mのデータをとって評価すると,より精度の高い成果が得られるわけです。ただ,ExxonMobilとか,石油メジャーが世界の色々な所で調査していますから,ある程度のデータはあると思います。それでも,評価の仕方によって埋蔵量が少しずつ違ってきます。例えば,キャンベルが1.8兆バレルで,USGSが3兆?3.4兆バレルと言っていますが,これは見方によってはかなり近い線ではないかと思います。

秋山 両者の範囲に近い辺りが限界だということですね。

芦田 どっちにしても有限です。1.8兆で41年だと,3兆バーレルだと68年ぐらいですから,そんなに違わないわけです。
 有限なものには必ずピークがあります。現実に今までアメリカの無煙炭も鯨油もそうでした。

芦田 石油の用途には発電と工業原料があるわけですが,発電は原子力や太陽光など,色々な手法で賄い,石油は工業原料に振り向けて、できるだけ石油の寿命を長くして,その間に新しいエネルギーだとか,社会システムを変えていくことが重要だと思います。

石油代替資源の開発

オイルサンド,オイルシェール

秋山 石油代替資源としてオイルサンドやオイルシェールなどがあります。カナダのオイルサンドについては,アルバータ州を中心に,可採埋蔵量として2〜3,000億バレル程度が存在すると言われています。そして,シンクレアオイル社がかなり輸出攻勢をかけているようですが,このオイルサンドの見通しについては,どう考えておけばいいのでしょうか。


水槽内のpHを下げるためにどのように

芦田 石油、天然ガス,オイルサンド,オイルシェールは,有機説の立場に立てば,でき方はまったく同じです。石油は動植物がケロジェンというものになって,それが還元状態で熱変性を受けて石油になって,さらに温度が上がると天然ガスになるのです。
 有機説の立場をとりますと,石油ができるには,まず根源岩(泥岩)が必要です。それから,それを溜めておく貯留岩(砂岩、石灰岩、凝灰岩)がトラップを形成し,そのトラップの周りに油が逃げないようなシール(例えば背斜トラップに対してはキャップロック)があって,熟成するための熱が必要です。それから,石油が生成される所である泥岩と貯留される所である砂岩は堆積場所が異なりますので,石油を泥岩から砂岩へ移動させる力が必要なのです。これだけの条件が揃って,油田,ガス田ができます。オイルシェールというのは泥岩で石油ができそのまま移動しなかったものなのです。だから,オイルシェールは「泥まみれの油」です。それに力がかかって移動していって,途中でトラップやシールがあれば油田,ガス田� ��でき,それらがなければ,地表近くに出てきて揮発性のものは蒸発し、重質油からなるオイルサンドとなります。

秋山 石油が途中で止まったか,地表に出てきたかの違いなのですか。

芦田 そうです。それで,オイルサンドというのは重質で流動性がありません。石油やガスなら自噴してくるのですが,オイルサンドは自噴しないわけです。そのために,SAGD(Steam Assisted Gravity Drainage)という日本の会社がカナダで290℃くらいの蒸気を2年ぐらい地中に入れ,重質油を溶かし,蒸気圧で温度が低い空洞の外側に追いやり,重くなって沈んでいく重質油を回収しています。ですが,ここでもコストを考えないといけません。石油だと井戸を1本掘れば自噴して出てくるわけですが,オイルサンドの回収は,何本も井戸を掘って,そこで2年間も蒸気を供給して初めて採れるわけですから、当然コストが多くかかります。

秋山 オイルサンドの場合,EPRはいくつなのですか。採取に相当な手間とコストとエネルギーを要することを思うと,その点が気になります。

芦田 オイルサンドのEPRには色々な試算がありますが,条件のいい所,つまり,あまり深くない場合で2ぐらいだと思います。オイルサンドがある場所はと言いますと,カナダとベネズエラです。ベネズエラはオリノコタールですが,これとカナダのオイルサンドでは油質が違うのですが,埋蔵量は中東の油田に匹敵するくらいの量があると言われています。それから,オイルシェールは地下の深い所にあって,ほとんど手つかずです。オイルシェールの推定埋蔵量もやはり石油の埋蔵量に匹敵します。しかし,これはEPRで見るととても利用できるものではないのです。だか� �,「石油の後はオイルサンドがあるじゃないか。オイルサンドの後にはオイルシェールがあるじゃないか」ということで安心とはいかないのです。

芦田 オイルサンドの開発が商業ベースに乗るようになったのは1990年以降です。技術的要因として地下を3次元的に調べる物理探査技術,井戸を水平に掘る技術,そしてSAGDの技術の3つがそれを可能にしました。
 3次元物理探査技術で非常に詳細なデータが採れるようになりました。それで,昔の川がどこを流れていたかを調べ,オイルサンドがありそうな砂のあたりを掘るわけです。
 井戸を水平に掘っていく技術では,ある深度さえあれば鉄管を垂直に曲げて掘ることができます。

「エネルギー」でないメタンハイドレート

秋山 日本の国産資源として大きな埋蔵量があるとして期待されているメタンハイドレートについて,エネルギーの観点からはいかがでしょうか。

芦田 メタンハイドレートはある圧力と温度(4℃くらい)でシャーベット状になった水にメタンガスが閉じ込められている(ハイドレート化した)ものです(図4参照)。

図4 燃えるシャーベット(メタンハイドレート)

 メタンガスがハイドレート化しますと水1リットルにつきメタンガスが150リットル貯蔵されます。どこにあるかと言いますと,ツンドラ地帯か大水深の所です。日本だと南海トラップだとかです。日本近海にあるメタンハイドレートは,日本の天然ガス消費量の100年分という推定試算もあります。100年もあれば,みんなが注目するのも当然です。
 それで,私も関係しているのですが,経済産業省がプロジェクトを立ち上げて,3次元物理探査をやって,一昨年,井戸を十数本掘ったのです。物理探査で調査しますと,海底に平行した非常に特異な現象(BSR:海底疑似反射面)が出る所があります。これがメタンハイドレートではないかということで調査を行っているところです。今迄の調査の結果によると、必ずしもBSRという特異な現象がメタンハイドレートの存在と一致しないということが分かってきました。となりますと,今度は推定埋蔵量が大きく変わってきます。
 したがって、現在のところ、私はメタンハイドレートは資源としては存在しても,エネルギーではないと理解しています。EPRで見ると,採掘コストが高過ぎてまだ使えない資源だということです。研究開発はどんどんやるべきだと思いますが、最終的には事業として採算がとれるかどうかが重要です。
 ツンドラ地帯にあるメタンハイドレートについては,カナダのマッケンジーで,日本が中心になりアメリカ、カナダ、ドイツと共同で基礎的な研究を行っています。どうするかといいますと,シャーベットなわけですから,オイルサンドと同じで,蒸気を入れて,シャーベットを溶かしてメタンガスを取り出すとか,あるいは減圧して,メタンガス(気体)と水(液体)に分離してメタンガスを取り出す実験を行っています。一応,一部取り出すのに成功したそうです。

秋山 この新しい分野の研究や技術開発で一番先端を行っているグループや国はどこですか。

芦田 メタンハイドレートでは日本がトップランナーの1つだと思います。

芦田 石油価格が上がってきますと,新エネルギー開発を大いにやるべしということになるのですが,その時に大事なのは,現在の安くて豊かにある石油を前提にコストを計算しては意味がないということです。石油がなくなった時のコストがどのぐらいかを考えないといけません。例えば,「石油がなくなれば水素がある。だから水素ができればいいんだ」と安心されている人もおられるのですが,水素は水という形で存在しているので,コストをかけて水を電気分解して水素を得ることになります。その時のEPRを考慮しないといけませんね。

高い流通コストが日本の課題

秋山 エネルギーを考えたり,選択していくときに,EPRは非常に重要な指標ですが,エネルギーの持つ価値というのは,単にジュールベースに留まらず,様々な角度に照らして見ていく必要があります。経済学の分野で,外部性とか外部不経済といった用語が使われますが,費用に着目した場合,外部不経済を「外部コスト」と称しているようです。環境問題に対してどのぐらい税金を払わなければいけないとかですね。そのように,エネルギー収支バランスに,エネルギー利用に関わる外部コストも加えて,トータルに考えることも重要だと思いますが,いかがですか。

芦田 外部コストのことも重要ですが,日本で一番問題なのは,流通コストが非常に高いことです。これから石油がなくなってきますと,今のように車で運ぶのではなく大量輸送システムで運ぶことになるでしょう。そういう意味で,私は日本津々浦々まで広がっている鉄道網を死守すべきだと思っています。勿論,現在は,食糧,エネルギー,工業など,あらゆるものが石油をベースにしています。社会全体としての問題に対して,国家的な戦略,ビジョンが必要になってくるのではないかと思います。国土交通省では輸送問題に関する研究会をおやりになっています。資源エネルギー庁も「新・国家エネルギー戦略」を作りました。
自動車などはどうするかというと,取りあえず今はハイブリッド車でいく。その次はバイオだというのです。できるだけハイブリッドで石油を長持ちさせ,時間を稼いでその間に対策を練ろうという戦略ですね。


仮説は、どのようなバッテリーの最長続く

大きなインパクトを持つレアメタルの確保

芦田 最近,どうも何でもお金さえ出せば手に入るんだという考え方が蔓延しているのではないかと危惧します。入る間はいいのですが,これからはお金を出しても石油や物が入ってこない。一番大事なのは食糧とエネルギーですね。
 アメリカは食糧にしてもエネルギーにしても,自分の所にある時は買え買えと言いますけど,なくなれば日本にかまっていられないわけです。それは日本が考えればいいんだというのが本音だと思います。
 その一番いい例が燐鉱石です。窒素・燐酸・カリは肥料の3要素ですが,窒素は空気中から,カリは灰ですから国内でも何とか入手できます。燐は燐鉱石を硫酸で融かして使うわけです。燐というのはどこにでも分散してありますが,集めなければ使えないのです。昔は鳥が食物で集めて,その糞で全体が燐鉱石という島があったのですが,今はその島の燐鉱石は取り尽くしました。今,燐鉱石を産出しているのはアメリカ(世界の34%),あと中国,ヨルダン,モロッコ,チリとかです。アメリカの燐鉱石の可採年数は7〜10年なのでアメリカは,燐鉱石の輸出を禁止しました。だから今日本に入ってきている燐鉱石は,中国などからの輸入なのです。

秋山 非常に重要なインパクトを持っている資源の1つにレアメタルがありますね。産業に直結したインパクトがあるということで,レアメタルの備蓄も政策的に国が始めるということも先日ニュースになっていました。

芦田 レアメタルでは、例えば、液晶の材料であるインジウムが大きなインパクトを持っています。この3月まで日本は世界第2位のインジウム生産国でした。札幌近郊の定山渓にあるジャパン・エナジー(株)の豊羽鉱山で生産していました。これは鉛・亜鉛鉱山なんですが,そこで,鉛・亜鉛の付属物として出してたのですが,鉛・亜鉛が採算が合わないということで閉山しました。同時に,付属物であったインジウムも採れなくなったのです。

エネルギー技術開発戦略

期待される「新・国家エネルギー戦略」

秋山 経済産業省の「新・国家エネルギー戦略」が2006年5月にまとまり,これに基づいて具体的な計画が予算化されつつあると思います。一方,「エネルギー政策基本法」に基づく「エネルギー基本計画」についても改定作業が間もなく仕上がります。この2つを両輪とするアクションプログラムが展開されていくことになるわけですが,「新・国家エネルギー戦略」を見ますと,目標が3つ明示されていまして,第1が「国民に信頼されるエネルギー安全保障の確立」,第2が「エネルギー問題と環境問題の一体的解決による持続可能な成長基盤の確立」,そして第3が「アジア・世界のエネルギー問題克服への積極的貢献」となっています。これらに基づいて戦略の中身を策定していく時の基本的な視点や留意事項等が書かれ� �います。そして「新・国家エネルギー戦略」の特徴は数値目標を挙げたことであり,省エネは2030年までに更に少なくとも30%の効率改善を目指すこと,石油依存度は2030年までに40%を下回る水準を目指すこと,現在ほぼ100%の運輸部門の石油依存度を80%程度とすることを目指す,などとしています。原子力の数値目標については,発電電力量に占める割合を2030年以降においても30?40%程度以上にすることを目指します。こういった数値目標を含めて,今回の「新・国家エネルギー戦略」についてお感じのことをお話し下さい。

芦田 これまで経済産業省は3つの大きな課題に直面してきました。「グローバリゼーション」,「エネルギー」,「産業振興・育成」の3つです。エネルギーは非常に重要だということで「新・国家エネルギー戦略」ができたわけですから,エネルギーに関する認識が高まってきました。これは非常に結構なことだと思います。目標が達成できるかどうかを別にしても,数値目標を設定するとことは必要だと思います。新エネルギーによる電気の導入促進を図るRPS(Renewable Portfolio Standard)法でも2010年における導入の数値目標が示されていますね。そういう意味で,「新・国家エネルギー戦略」が掲げる数値目標を基に産業や運輸などをどうしていくか,国家として考えていただくことは非常にありがたいことだと思っています。

秋山 「新・国家エネルギー戦略」はまさに戦略という文字がついた大変に重要なものです。その内容を進めていく上では,国際競争をも意識しながら選択と集中を行っていく必要があります。日本工学アカデミーや当研究所のようなシンクタンクも含めて,非営利で中立的な立場の専門家がこうした戦略に基づく事業の推進にどう力を尽くすことができるか。我々の心構え,期待,問題などについてのご助言をいただけるとありがたいのですが。

芦田 こういうプロジェクトが走り出しますと,色々なプロポーザルが一斉に出てくるのですが,ちゃんとした計画に基づき,ちゃんと査定して地に足のついた研究をやらないと成果は挙がらないと思います。日本というのは一般的に,部品を作るのは非常にうまいのですが,その部品を組み合わせて全体をシステム化するということが苦手です。システム構築のトレーニングを積まないとリーダーがなかなか育ちません。やはりちゃんとしたリーダーの下で全体をシステム化する組織が必要だと思います。

大陸棚の境界確定問題

日本の場合難しい大陸棚境界画定

秋山 漁業や海底資源採掘などに主権的な権利を主張できる大陸棚境界の確定の問題があります。そのための海洋調査というのは,海洋権益確保の問題とエネルギー鉱物資源の確保といった面で,極めて重要だと思います。そこで,海洋の調査研究に関する最近の努力の方向や今後の見通しについてポイントを教えて頂けませんか。

芦田 大陸棚境界は国連にレポートを提出し,それが審査・合格して初めて確定されます。そのためには国連の審査に耐え得るような調査をやらなければ駄目ということです。調査については,内閣府でおやりになっているということで,それに非常に期待しています。もう1つ重要なのは,2009年の5月という期限です。現在,調査と解析を併行してやっているのですが,英語でレポートを出すのに1年以上かかりそうです。期限に間に合うのか私は少し懸念しています。

秋山 日本に1隻もなかった3次元調査船の建造計画がスタートしたということですが,調査船のことも含めて2009年5月の期限までの全体的な工程表はあるのですか。

芦田 私は直接関与していませんが,内閣府が然るべき方法でおやりになっていると思います。

芦田 日本の場合難しいのは,国連のガイドラインの中にいくつかのルールがあるということです。1つは大陸斜面脚部から60海里,あるいは堆積物の厚さがその脚部からの距離の1%になる,どちらか遠い方を境界とするという通常則です。それに対して制限則として,水深2,500mプラス100海里、あるいは350海里のどちらか遠い方ということがあります。日本の場合,堆積物はそれほどありません。水深2,500mプラス100海里は200海里の内側に入っていますから,これも駄目です。日本の場合には大陸斜面脚部の位置が一番重要になってくるわけです。これらのルールは日本のような沈み込み帯に適用できるルールではなく,アメリカやヨーロッパを主体にしたルールで、日本の場合に適用するのは難しいです(図5参照)。

図5 大陸棚の定義(平面図)ヘッドバーグ線

 さらに作業を難しくしているのは,通常則が適用できない場合には反証を示して陸続きであることを自分で証明しろということです。シナリオを自分で書いて,国連に提出しなければならないのです。日本の場合は反証の方法を用いるしかしかありません。各海域ごとにシナリオを組んで,それで国連を納得させなければなりません。

説得力あるシナリオ作りに必要な3次元調査

芦田 石油の探査であれ、大陸棚画定のためであれ、海の地下構造を調べるには3次元調査船が必要なのです。それは2年前には世界で40隻ぐらいありました。その時,中国が4隻,韓国が2隻,日本は0でした。 現在,中国は3次元調査船を12隻持っていて,石油価格が上がってきている今,石油の調査を色々な所で活発化させています。
 3次元調査船というのは,地震計を内蔵したケーブルを10本とか20本とか引っ張って,人工地震を発振しながら一挙に地下を調べていくという8,000トンぐらいの船です(図6参照)。

図6 3次元調査船

2次元調査船だとケーブルを1本しか引っ張ってないんですね。だから2次元の断面のデータしか採れない。ケーブルが十何本あると面的なデータが採れるわけですね。そういう意味で3次元と称しているわけです。

秋山 3次元調査船は今では日本でも稼動が始まっているのですか。

芦田 いいえ。日本は世界第6位の経済水域を持つ海洋国家ですが,3次元調査船を現在1隻も持っていません。それで,色々な方にお願いして,一昨年,建造予算247億円がつきました。ところが,去年は発注業務が行われなかったのです。


秋山 予算がついたのに発注されないのですか。

芦田 そうです。やっと今年になって私も入っている調達委員会ができ,発注すべく業務を行っています。今年の12月ぐらいにはその発注業務がやっと動くと思います。船が完成するのは,中古船の改造の場合で平成19年度の春、新造の場合は20年度の春ぐらいです。

秋山 ともかく,国の海洋権益について政策的に議論するには,しっかりした調査が前提ですね。

芦田 そうです。中国は沖縄トラフまで大陸棚が広がっていると主張しています。国連海洋法条約では,係争地については関与しない,関係国で問題を解決することになっています(第76条10)。ですから,この問題は日中間で解決しなければならないわけですが,その時に,データを持っているのと持っていないのでは全然話になりません。先方は12隻の3次元調査船を持っていて,全部調べ上げているわけですから。

秋山 海洋,海底については,ニュージーランドでも随分詳しい調査を行っているということですが。

芦田 私,外務省に頼まれてニュージーランドとオーストラリアがどういう方法でやっているか調査しました。ニュージーランドの場合,北は東側から太平洋プレートが沈み込み,南は西側からインドプレートが沈み込んでいます。一方,オーストラリアは沈み込みがなく,水深調査だけやっている感じでした。しかし,ニュージーランドもオーストラリアも10年計画を立てて,そのとおりに実行し,レポートを国連に出しました。費用は両国とも10年間で30億円です。

芦田 日本は,3年ほど前から年間140億円ぐらい出して調査をやっていますが,日本の場合は難しいのです。オーストラリアは水深調査さえやれば,大陸斜面脚部が決まります。それで60海里の線を引っ張ればいいわけですが,日本の場合は海底地形が複雑でそう簡単にはいきません。

3次元物理探査の内容

秋山 物理探査の技術では2次元から3次元調査へ,さらにはバーチャルリアリティの普及へと進んでいるとのことですが,それらを含めて全体的な内容を分かりやすくご説明いただけますか。

秋山 守
((財)エネルギー総合工学研究所 理事長)

芦田 物理探査技術は,アメリカを中心に石油開発のために開発され発展してきました。1927年頃から石油開発探査に用いられています。その後,ExxonMobilなどのメジャーを中心に,非常に多くの資金と優秀な人材を投入して石油を探してきたわけです。そこからの波及技術の1つがIC回路で、野外の劣悪な環境下での使用に耐えうる小型・軽量で丈夫な調査機器のために考案され、また、もう1つがアレイプロセッサーで,非常に大量のデータを処理するための非常に高速な周辺装置です。

秋山 そのために専用のコンピュータを設計したということですか。

芦田 はい。高速の周辺装置をつけたプロセッサーとIC回路です。IC回路は,我々が現場で調査する際に使える軽くて丈夫なものをTI社という1石油会社の探査会社の子会社だったところに作らせたのです。アレイプロセッサーはIBMに作らせました。  3次元物理探査については,アメリカを中心に非常に高度な技術体系があります。今,IT技術を使って地下を,バーチャルリアリティ(仮想現実)で見ながらコラボレートピープル,コラボレートデータ,コラボレートディシジョンを行う技術体系です。要するに,すべてのデータを集めて,技術者,物理探査家,地質家,マネージャー,会計の人など,全部集まってきて意思決定をするのです。地下を詳細に調べたおかげで油田の発見率が飛躍的に向上したわけです。

秋山 今話された技術は,日本ではどのぐらい実際の探査に適用されているのでしょうか。

芦田 そういうシステムは,昔の石油公団(現(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構:JOGMEC),石油資源開発(株)とかで,持っています。しかし,3次元調査船がないために入力するデータが十分ではありません。昭和40年代には拓洋丸という船を石油資源開発(株)が持っていました。昭和50年代には開洋丸を作って,日本周辺海域の調査をしていたんです。それが,作業量がないということで昭和62年頃に開洋丸を売り払ったわけです。その当時,中国にはほとんどそんな技術はなかったのです。日本が技術を供与し,船を作って,それで技術を蓄積しました。今や,中国は,相当な技術で世界を股にかけて石油を探しに行っています。
 日本は昭和60年頃からあった3次元調査の技術的な流れにまったく乗り遅れたわけです。

秋山 日本は,これから気を引き締めながら,海洋について人材やインフラも含めた投資をして,積極的かつ体系的に取り組んでいくべきですね。

芦田 そういう意味で,「新・国家エネルギー戦略」ができたということは重要なことだと思います。日本の石油関係を全部集めても,ちょっとしたアメリカの石油会社一社にも足りないということですから。

秋山  インターネットで人工衛星による探査の話を読みましたが,油田探査にも有効なのでしょうか。

芦田 人工衛星からだと非常に高い周波数で見ることになりますから,地表面のことしか分かりません。勿論,鉱物資源が地表に露出している場合には有効です。例えば,南アメリカでは人が入って行けないジャングル奥地の上空から人工衛星で探査して銅鉱脈を探しています。しかし,地下3,000〜4,000mにある石油を人工衛星で探すのはとても無理ですね。

次世代への期待

秋山 人材教育も含めて,これからの日本の行方を考えながら,先生のご期待なさること,また,日本がエネルギー,食糧,環境問題の中でどう先進的に振る舞っていけばいいか。さらには,近隣のアジア諸国との連携,協力における日本の役割などについて,特に若い人に期待することを教えていただければありがたいです。

芦田 科学技術を使って自然をコントロールするのではなく,やはり自然と調和するという東洋的な思想に還るべきだと思います。20世紀,特にその後半は資源・エネルギーという観点からは「バブルの時代」でした。バブルの厄介なところは,そこにいる時にはそれと認識できないということです。終わって初めて「バブルだった。ピークだった」ということが分かるわけですから,先を予測しなければ駄目なわけです。20世紀後半の「バブルの時代」が21世紀も続けば良いのですが,それが難しいとなると,19世紀の水準に戻らなければならないと思います。
 現に,江戸時代の日本は最たる資源国だったのです。金,銀,銅を産出し,なおかつ,優秀な国民がいたわけです。300年の鎖国の中で儒教が広まって,非常に勤勉な,それから教育は寺小屋で行い,ほとんどの人が読み書きできたという,世界に冠たる国だったわけです。環境問題に関しても,当時の日本の人口は3,000万人なのですが,江戸などでは人糞を肥料として近郊の農村の人が買って行き,農作物を育てて,それを食糧として江戸の街に持ってくる。川もきれいだったし,循環型の社会が100年ぐらい前まではあったわけです。それを第二次世界大戦が終わってから捨ててしまったのは非常に残念だと思います。今の状態では石油や天然ガスがなくなると生きていけないと思うのです。

芦田 これから我々は「地方の時代」ということで,ヨーロッパ型の地方に中核都市を作って,そこでエネルギー,食糧の自給自足をやるという社会を目指していくべきだと思います。都市に人間が集まって,帰ろうにも帰るところがないという状態ではいけないと危惧しています。
 しかし,日本人というのは,非常に変わり身も早いので,期待はしています。そういう意味で,私は環境・エネルギー・農林業ネットワークという,NPOを作って活動しようとしています。
 それから,近隣諸国との件では,資源の取り合いをしても埒があかないので,これから領土だとか,日本人,中国人とかいう考えでなく「地球人」という考え方で,地球規模の視点に立ち,領土問題を切り離して,資源開発は共同でやっていかないと,折角の資源も採れない状態になってしまいます。

秋山 特に都会で自然との付き合いがない状況で育った子供には,ご飯はどこからどうやってできてくるのか実感として湧かないということが,いろんな社会問題にも間接的に影響しているかもしれないし,やはり小さい頃から自然,あるいは厳しい環境を実体験することが重要なのではないか。そのような経験をしたかしないかは非常に大きな違いとなって現われるのだと思います。


芦田 やはり大自然の営みの偉大さを肌身に感じていますと,自分らのひ弱さ,あるいは地球に生かされているのだという考えが出てくるわけです。「我々が中心なんだ」と考えますと少し困ったことがあると挫折する。昔は家の中でもお父さんとか,おじいさんだとかがいて,非常に畏怖の念,尊敬の念があって,日常的にそういうことを経験していたわけですね。それが核家族化で,そういう尊敬や畏怖の念を抱く対象がないんじゃないか。それが非常に気になります。
 例えば,今,人口が増えている県がありますが、増えている要因として,夫婦共働きで収入が多いこと、それから,少なくとも二世代以上の同居で子供の面倒を祖父母が見ることができることがあるそうです。

秋山 自然も含めたところを幅広く経験することで,翻って,自分の家族とか,知り合いとかの大切さも理解でき,従って,仲良くやっていけるようになると思いますね。

芦田 学校の勉強ができるだけでなくて,やっぱり一芸に秀でたものをもっている人に対しての尊敬とか,報酬を払うという,そういう社会でないといけないと思いますね。現実に日本は匠という非常に優秀な技術を持った人がいます。だから,そういうものを大事にする,評価するということですね。再チャレンジは当然のこととしないといけません。勉強も大事ですが,やっぱりそういうものを受け入れる社会の度量というものをこれから目指すべきだと思います。

秋山 本当に貴重なお話を沢山ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。



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